話を聞いた人:カンパイバル 代表取締役 齋藤久志さん

福島市の南東部にある松川町にひっそりと佇む『KANPAI BAR(カンパイバル)』。ここは、福島市街地にあった人気店「Bar Suika(すいか)」のオーナー齋藤久志さんが移転オープンした店です。
齋藤さんの地元でもあるこの場所で、新たに営んでいるのは食品加工所を併設したバー。
この場所で規格外のモモやリンゴなどを使用し、「フルーツシロップ」「ノンアルコールサングリア」などの商品を開発するかたわら、市内農家の6次化商品の小ロット製造や支援などを行っています。
規格外の果物をフレッシュカクテルにしていたのが始まり

バーテンダーとして、約20年ほど活躍している齋藤さん。「仕入れ先の農家から『規格外の果物が多くて困っている』という話を聞いて。それをどうにかできないかと考えたのがそもそもの始まりでした」。当時オープンした店は果物を使ったフレッシュカクテルが人気となり、週末は行列ができるほどでした。
東日本大震災をきっかけに日本を飛び出し、単身で訪れたドイツで行ったのは法人会社の設立。
「震災直後、福島は元気がなかった。でもいつか福島がまた前向きになった時に、ハブとなるような会社がドイツに一つあってもいいんじゃないかと思っていて。ちょうど現地で面白い日本人の醸造家に出会ったこともあって、一緒にリースリングワイン「639」を作って輸入販売することにしました。他にも現地のレストランのプロデュースなども行っていました」
そして現在、齋藤さんは新たなステージに立っています。
それが、福島産の規格外果物を加工して世に出すことです。

「規格外の果物って、全体の収穫量の中で3割あるんですよ。味は一級品なのに形や色のせいなどで市場に出せない。例えばこのぶどうとシャインマスカット(※1写真参照)は色が規格外。味は色づいている物と一緒なんですけどね。そういったものを以前は自分の店で消化しているだけでしたが、今はそれを美味しく加工して色んな人に食べてもらえるように商品開発しています」。

果物のポテンシャルを最大限に活かした「フルーツシロップ」誕生

「商品開発と、地域課題の解決をどう絡めていくか。そう考えたとき一番やりやすかったのが、果物をシロップに加工することでした」と話す齋藤さん。
そこに行きつくまで当然、フレッシュな果物を別の食品と合わせたり、フローズンにしたりと試行錯誤。さまざまな方法を模索する中で生まれたのが、軽トラ市やネット販売でも購入できる「フルーツシロップ」です。

例えば人気の「フクシマクラフトコーラ リンゴ」の場合、ふじ、陽光、シナノスイートなどなど品種ごとに小ロットで仕込んでいます。
「炭酸で割っても手軽でおいしいですが、火を入れたリンゴにソースとして垂らしたり、りんごジュースで割って飲むのもおすすめです」。
「規格外」への認識を変えたい

バイヤーには『欠品しないように』とお願いされているという齋藤さん。
「でも、この商品は規格外を使ったものですからね。欠品して当たり前だから、こればっかりはね(笑)」と微笑みます。
規格外の果物は自然の影響で決まってくるから、いつも同じものを使える訳ではありません。品種が変われば当然、味も変わる。そこは私たち消費者が自然に合わせていきたいところですね。
齋藤さんは続けて言います。
「これからは規格外=悪いもの・安いものという認識を変える、消費者の意識改革が必要だと思います。見た目や形がいびつだったり少し傷があったりしても、美味しく食べられるなら価値はそれほど変わらないはず。子どもの食育も大事ですが、現代では大人の食育こそ必要だと感じています」。
齋藤さんからのメッセージ
「災害の多い世の中。今は、『防災用の備蓄シロップ』を開発しているところです。
避難所で配られるおにぎりやカップラーメンだけでは、どうしてもビタミンCなどが不足しがち。それを補ってもらうには、フルーツシロップが打ってつけではないでしょうか。
これを県内外の自治体に備えてもらえれば、必要なところに必要な物が届く。備蓄用にするため、長期保存が可能となる遮光性のあるパウチ容器を作っている段階です。発災時には水で溶いてすぐに飲むことができるし、美味しいし、無駄もなくせると思っています」。
齋藤さんが初めて規格外の果物を使いだしてから、20年近くの時が過ぎました。最近では「リユース」「リユーズ」という言葉も生まれ、もったいないをなくすことに注目が集まってきています。
「まずは地域のもったいないをなくしたいです。一人でやってるといくらでも手を抜くことができてしまうけど、衛生管理や原料の管理も含めて、基本が大事だと考えていて。面倒くさがらず、小さいことを積み重ねながら、仲間を増やしていきたいです」。
KANPAI BAR(カンパイバル)
住所: 福島県福島市松川町字天王原98
TEL:024-563-6668
メイン商品:フルーツシロップ各種、スパイスカレーなど